「物語に基づく医療」を社会システム論から考えてみる(中編)

 この記事は『「物語に基づく医療」を社会システム論から考えてみる(前編)』の続きになります。

 前編では当記事作成の経緯、そして《物語に基づく医療(以下NBM)》についての再確認をしました。

 中編では、

・交換様式論ってなんだ?

・物語に基づく医療を『交換様式』から考えてみる(さわりだけ)

 というものを、書きいていきます。

・交換様式論ってなんだ?

 《交換様式論》とは日本の哲学者・思想家である柄谷行人氏が提唱した理論になります。講義の参考図書『世界史の構造』は500ページを超える大著でして、深いところまで語るのは文字数的にも知識的にも難しいですが、理論のさわりについては語ることはできると思います。

 交換様式論では、国などの社会構成体を以下の4つのタイプからとらえます。それぞれ特色ある「何かの交換」があります。

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 不平等平等
不自由B:略取と再分配
(支配と保護)
A:互酬
(贈与と返礼)
自由C:商品交換
(紙幣と商品)
D:X
(???)

 A:互酬の特徴は「不自由であるが平等」という点。

 例えば、国という枠組みが発達する前の小規模な民族共同体。まだ狩猟生活が主で、格差の原因となる蓄えがない。格差がなければ上下関係はない、あっても小さい。ただ自由ではありません。他者が交流として贈った価値あるものには返礼しなければならない。仮にある民族が別の民族を襲えば、略奪という贈与に対して略奪という返礼が送られます。

 B:略取と再分配の特徴は「不自由で不平等」という点。

 いわゆる国家。国家は、国民と支配者との上下の関係性があり不平等です。また国民は支配者に対して米や貨幣などの税を渡します。それらは国にいる以上は義務であり不自由です。ですが、支配者は外の暴力から国民を守ったり、税を再分配したりします。

 C:商品交換の特徴は「自由であるが不平等」という点です。

 これは昨今の資本主義経済がよく当てはまる。共通の通貨を持って、資本を増やそうと努力する、また努力しないも自由。ただし、資本主義ではどうしても格差が広がるから平等ではありません。

 X:これは自由であり平等でもある。そしてまだ社会に存在していないのが特徴です。

 柄谷氏は、A~Cまでの中で、支配的な交換様式が替わりながら社会が発展してきた、としています。注意するべきはどれかが支配的であればどれかが消えるわけではなく、小さくとも残っているということ。現在の日本社会は、資本主義が優位ではあっても税金の義務や恩恵がありますし、地方や小さなコミュニティでは昭和的なムラ社会もあったりするでしょう。

 そしてD。Xという自由で平等な社会。夢のような話です。ただ、それが現実的に難しいのは当たり前。柄谷氏は参考書の後半、いくつかの課題を述べつつも、最終的には未来にXというの社会構成体が生まれるのでは……ということを話していました。

・物語に基づく医療を《交換様式》から考えてみる

 話を《物語に基づく医療》と講義に戻りましょう。講義では、この交換様式論をざっくりと説明しつつ、これらの社会構成体が本当に生まれるのかということを検討し、先に話したように、最後に「Xという交換様式の兆しとなる事例を考える」ということをしました。

 つまり、「自由で平等な社会になるためのシステムの兆しはなにか?」という話です。あくまで兆しであって、自由で平等な理想郷そのものではありません。

 そして筆者は、Xの兆しを「投資信託かな……?」とか「オタク文化かな……?」とかいろいろ考えて、最終的には「ナラティブってそれっぽいな?」と思い至ったのです。

次回、「物語に基づく医療」を社会システム論から考えてみる(後編)へ続く

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この記事を書いた人

関東在住の理学療法士。地域病院で急性期病床、地域包括ケア病床、介護療養病床の院内リハビリ、訪問リハビリテーションを経験。
現在は訪問看護事業所にて訪問リハビリテーション業務に従事中。

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