「物語に基づく医療」を社会システム論から考えてみる(前編)

 それは、フロイトの言葉でいえば「抑圧されたものの回帰」として回復される。それが交換様式Dである。(世界史の構造 柄谷行人著 より)

 まず、はじめに医療の領域から少しだけズレることをお許しください……!
 筆者は現在、通信制大学にて心理学を学んでいます。それは臨床に役立てるためでもあり、それ以上に自分自身のためでもあります。直近ですと「司法・犯罪心理学」「進化心理学」「社会・集団・家族心理学」など……。
 ただ、心理学以外の科目を選択する余裕もあり、筆者はこんな科目を受講しました。

《交換に基づく社会システム論》

 これは「交換様式という一つの理論を基に、社会システムやその発展を考えてみよう」という内容の講義でした。この講義の参考図書を5年ほど前に購入し読んでいたのが科目選択のきっかけです。そして講義の最後に「これからの未来において、《X》と呼ばれる交換様式(後述します)の芽生えとなっている事例を探してみよう」という提出・発表課題があり、筆者はその事例として《物語に基づく医療》を挙げてプレゼンしました。
 これが思っていた以上に講義を受けた同大学の学生の方々に反響をいただいたので、この場でも書き連ねてみようか、と思った次第なのです。

 大枠は以下のような感じです。

・物語に基づく医療を再確認しよう
・交換様式論ってなんだ?
・物語に基づく医療を『交換様式』から考えてみる

 医療は、決して医療の枠組みだけに囚われていいものではない。そんなことを考えながら、書いてみようかと思います。

 まず、《物語に基づく医療》についてです。
 Narrative-Based Medicine(以下NBM)。これは1998年に提唱された、それまで(現在も)医療で展開されている《根拠に基づく医療:EBM》の問題点を補完する形で提唱されました。
 医療者、及び学生さんにとっても馴染み深いと思います。いわゆる『エビデンス』ってやつです。
 エビデンスが重要なのは論を待たないと思いますが、当然患者さんは一人一人異なる歴史や価値観を持っている。その一人一人の患者さんに対して、画一的にEBMを提供するだけでは解決できないことがある。そこで、ナラティブ──患者さんの物語に耳を傾け、また患者さん自身が自分の物語を語ることを手伝うのがNBM。
 恐らく端的に言えば、患者さんの意思を尊重すること、患者さんの価値観を尊重することでしょうか。昨今の医療現場では、実行できているか否かは別にして、このNBMを否定することはあまりないのではないか、そのくらい知識的に浸透しているのだろうと思います。
 メディケアブックスで執筆されている筆者及び他のライターさんの記事の中にも、NBMと重なる価値観が顔をのぞかせる文章はあるはずです。

 では、次に《交換様式》ってなんだ? という疑問。それは次に任せたいと思います。

次回、「物語に基づく医療」を社会システム論から考えてみる(中編)へ続く。

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この記事を書いた人

関東在住の理学療法士。地域病院で急性期病床、地域包括ケア病床、介護療養病床の院内リハビリ、訪問リハビリテーションを経験。
現在は訪問看護事業所にて訪問リハビリテーション業務に従事中。

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