私は訪問診療所の看護師です。
医師の診察の同行で、患者さんやご家族の今後の生活についてお話させていただく機会が多くあります。
近年、人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の考え方が広まってきています。
「もしものときのために今後のことを考えておこう」という取り組みです。
患者さんのACPの場面にたくさん関わらせていただいてきましたが、今回はこれまで印象に残っているご家族のお話をご紹介します。
Aさんは奥様と2人暮らし。
認知症で意思疎通が難しく、ADLにも介助が必要です。
奥様のサポートと訪問介護を利用しながらご自宅で過ごしておられましたが、少しずつ全身状態が低下していました。
診察に伺ったある日、奥様が「主人はこのままどうなるんでしょう。私もできることならしてあげたいけど、一人でみるのはそろそろ難しい気がして。でも施設もかわいそうで...。」という胸の内をお話してくださいました。
私たちは医療者側の考えをお伝えしました。
「自宅で奥様と過ごすだけが正解ではないこともあります。もちろんご家族との時間は大切にしてほしいけれど、共倒れになってしまうことはご主人も望んでおられないでしょう。ご自宅で介護サービスを利用しながら自宅で過ごすのも、施設で過ごして時々お顔を見てお話されるのも、どんな選択でも間違いではないと思います。」
奥様は「そうですね、共倒れになるのは1番悲しい」と、涙を流されました。
その後も診察のたびにAさんや奥様と今後のことについてお話をしました。
「Aさんは元々、どんな人でしょうか?」
「今この状況で、Aさんが元気だったらなんと言うでしょうか?」
「Aさんとご家族のこれまでの人生で、印象に残っていることはありますか?」
Aさんの人生の歴史、価値観などを知るためにたくさんお話を聞かせていただき、今後どのように生活していくのが良いのか話し合いを重ねます。
…その後Aさんはご自宅で介護サービスを利用しながら過ごされ、施設が空いたタイミングで入居されました。
奥様から「いろいろお話をしてくださり、本当にありがとうございました。距離はできたけど、お互いの負担を考えたらこれが一番よかったと思います。」という言葉をいただきました。
今後のお話をするときに医療者として心がけていることは、ご本人やご家族の想いを尊重しつつ、できることや難しいこと、どんな選択肢があるのかなど、わかりやすくお伝えすることです。
ときにはご本人ではなくご家族が意思決定の主軸になることもあり「この選択が正しいのだろうか」と不安になってしまうことも少なくありません。
どんな選択肢でも正解はないー。ご本人のこれまでの歴史や価値観に想いを馳せて、ご家族や医療介護スタッフ全員で考えていくプロセスが大切だと思っています。
患者さんやご家族の人生の選択に関わらせていただいていると思うと、身の引き締まる思いと同時に、感謝の気持ちでいっぱいです。
今後のことを考えるときの選択肢も、医療者の知識や経験で変わることがあります。
患者さんやご家族にとって何が大切なのか。大切なことを叶えるためにどんな選択肢があるのか。
できるだけ多くの選択肢をお伝えするために、私はこれからも学び続け、人として成長していきたいと思っています。
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