家に帰るか、施設で暮らすか

 昨今の日本は少子高齢化などの背景から地域医療を推進しています。できる限り対象者が住み慣れた地域(自宅等)で生活していただくというもので、語弊込みで暴力的に言っちゃえば「とにかく家に帰ろう」みたいな感じです。
 実際、終の棲家ですから知らない施設よりも住み慣れた家で生活し、もしもの時はそこで最期を迎えていただく。それは基本的に良いことですが、それとは真逆の選択肢に走ったケースがありました。

 その方は認知症があり、基本動作やADLは見守りから自立くらいで、リハビリをすれば何とか家に帰れて生活ができるだろうといった感じの患者さんでした。
 家族の方は施設を推している。医療相談員も同じ意見。こう聞くと「ああ、そうなのか」と納得しなくもないのですが、上記の日本のスタンス、リハビリとしての身体機能的に「施設に帰るのはもったいないな」と思ったので、「本当に施設でよいのか」を考えてみることにしたのです。
 実行したのは、いわゆる身体機能の評価ではありませんでした。カルテや他のスタッフが持つ情報からはわからなかった、患者さんの家での生活の様子。それを病院に来ない患者さんの家族に対して電話で聞くことでした。
 一リハビリスタッフが電話して良いのか悪いのか、病院それぞれの規則はひとまず置いておいて、そこで筆者はいくつか有益な情報を聞くことができました。
 患者さんは寂しがり屋で、1人でいると絶えず家族に電話をしてしまうこと。お話好きなこと。それは認知症の影響だけじゃなくて性格的な傾向も強いこと。

 なるほどここまで聞くと、基本動作やADLが見掛け上は自立できても、今後も家族や本人の精神的な負担を考えれば施設の方が患者さんがその人らしく安全に笑顔で暮らしていけるだろうと思えました。
 筆者がここまで頑張らなかったとしても、結果は変わっていなかったでしょう。それでも専門家として、自立できる可能性があるのにそれを訴えないのは怠慢になると思った。そして家族に問い合わせたからこそ、それも評価の一部として、自信をもって施設がより良い環境だと判断できたのです。
 それにただの社交辞令かもしれませんが、家族の方に「そこまで聞いていただいてありがとうございます」とも言っていただきました。

 思ったことは2つです。
・本当に家に帰ることだけが良いことなのか?
・自分の判断が専門職として正しいと、そう思える評価や考察をしたのだろうか?

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この記事を書いた人

関東在住の理学療法士。地域病院で急性期病床、地域包括ケア病床、介護療養病床の院内リハビリ、訪問リハビリテーションを経験。
現在は訪問看護事業所にて訪問リハビリテーション業務に従事中。

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