今日の話は訪問介護をしていた時のエピソードです。その日は台風が接近していて、1日中雨が降り続いていました。
1日の始まりにはカラカラだった雨ガッパも、最後の訪問の後には、プールに浸かったと思えるほどにびしょびしょに。雨の中の訪問はただでさえ体力を消費するのに、濡れたカッパを脱いで、家を出る時にまた着るという行為がさらに疲れを加速させます。
その日の訪問件数は12件と普段より多く、お昼ご飯を食べる暇さえありませんでした。訪問件数の多さに疲れていた私は、真っ暗な雨の中を訪問しながら徐々に気持ちが落ち込むのを感じました。
「一体何をやっているんだろう。辞めたいな。」
そんなことを考えながらも、足は自転車を漕ぎ続けます。
21時半ごろ、最後の訪問先に到着。この訪問を終えたら、一度ステーションに戻り、雑務をして仕事が終わるのは23時前ごろ。帰宅は24時前。
そんなことを考えていたら自然と涙が溢れ出てきました。けれど、涙を拭いてインターフォンを押します。
すると穏やかな笑顔のご婦人が出迎えてくれて、
「こんな雨の中来てくれてありがとうね。こちらをどうぞ。」
と、1枚の真っ白なタオルを渡してくれました。初めてうかがう訪問先でご婦人とは初対面でしたが、ずぶ濡れの中訪問した私を気遣ってくれていたのです。
その日のケアは、排泄介助からパジャマへの更衣、ベッドへの臥床をするというサービスでした。サービスを終えて、退室しようとしたところご婦人から、
「この後まだ訪問あるの?」
「もう帰るだけです」
とお答えすると、ご婦人から「なら少しこちらへどうぞ」と言われました。
案内される方へ向かうと、そこには旦那様が淹れた一杯のコーヒーが置いてあったのです。
「飲んで温まって行ってください」
本当は良くないことですが、せっかく用意してくださったご厚意を無下にすることもできず、頂きました。仲の良いご夫婦で、コーヒーを頂いている数分間に優しい言葉を下さったのを今でも覚えています。
その後数年で転職することになりましたが、あの時の優しさは今も忘れられません